【知っておくべき法律】消費者保護法と企業責任の関係とは
消費者を保護する観点から制定された「消費者保護法」や「特定商取引法」などの総称が「消費者保護法」です。ここでこの消費者保護法について言及し、企業として果たすべき責任、違反した場合のデメリットなどを解説していきます。
消費者保護法の種類とは?
事業者と一般消費者が取引を行う場合、両者の間には、持っている情報の量やその質、交渉力には大きな差があります。そのため実質は平等な立場とは言えず、消費者が不利益を被りやすいという現状があります。そこで特に消費者を保護するための法律が定められています。
それが「消費者契約法」「景品表示法」「特商法」「訪問販売法」「割賦販売法」などです。
さらにこれらの法律を総じて「消費者保護法」と呼んでいます。
具体的な内容について、以下で詳しく見ていきましょう。
消費者保護法
「消費者契約法」をざっくりと説明すると、“事業者の不当な勧誘により締結された契約を、契約締結後に取消すことができるルールを定めた法律”と言えます。
消費者と事業者の間で結ばれる「消費者契約」の全てが対象です。
また、同法で言う「不当な勧誘」とは以下のような行為を表します。
- 不実告知
重要な事項について、事実と異なることを告げること
例)中古車を購入する際に、「事故歴はない」と事業者から説明されたが、実際は事故歴のある車であった
- 断定的判断の提供
不確実な内容を断定的に告げる、「必ず儲かる」、「絶対に値上がりする」など、確実でないものを確実だと誤認させること
例)絶対に損しないと言われ、投資の契約を行った
- 不利益事実の不告知
消費者側が不利益になる事実を故意的に告知しないこと
例)隣接ビルの建設計画を知っているにも関わらず、そのことを告げずに日当たり・眺めが良いと説明して契約を締結した
- 不退去
消費者が退去すべきとの意思表示をしたにも関わらず、事業者が退去しないこと
例)自宅に来た営業マンに「帰ってほしい」と何度も言ったが、しつこく勧誘を続けて契約を締結した
- 退去妨害
消費者が退去すると意思表示したにも関わらず、事業者が退去させてくれないこと
例)販売店において、「帰りたい」と何度も言ったのに、帰らせてくれず、契約を締結した
- 過量契約
通常の量を著しく超える量のもの購入を勧誘すること
例)一人暮らしの老人に、大量の高級布団を購入させる
景品表示法
「景品表示法」とは、“不当な表示または不当な景品の提供による消費者誘引を防止するための法律”です。
表示については、消費者にとって品質や価格などの情報は商品やサービスを購入する際の重要な判断材料であり、正確に伝えられなければならないものです。にもかかわらず不当な表示が行われてしまうと、消費者が適切な判断ができなくなります。そこで同法では消費者が誤認するような表示を禁止しています。
ここで言う「表示」とは事業者が商品やサービスについて示す広告等を指しており、チラシやパンフレット、説明書、ポスター、看板、テレビCM、ウェブサイトなどがこれに当たります。
また、「景品」については、商品やサービスの取引に付随する形で、消費者に提供される物品や金銭のことを言います。
一例として、以下が挙げられます。
- 来店者にもれなく提供される粗品
- 一定の金額以上購入した消費者に抽選で提供される賞品
- 福引きセールで提供される賞品や旅行券
これらは販売促進のために提供するケースがよくありますが、消費者が景品のために商品やサービスを選択してしまうと、消費者が不利益を受けることが考えられます。これを防ぐために、景品の総額や最高金額が制限されています。
特商法
「特商法(特定商取引法)」は、“消費者トラブルが生じやすい取引類型を対象に、一定期間内なら契約を解除できるクーリング・オフ制度を設けるなどして、不適切な勧誘や取引を取り締まっている法律”のことです。
対象となる取引の類型は以下の通りです。
- 訪問販売
消費者の自宅に事業者が訪問して商品の販売または役務の提供契約する取引(アポイントメントセールスやキャッチセールスを含む)
- 通信販売
インターネットや新聞、雑誌などによって事業者が広告し、電話や郵便などの通信手段によって申し込まれる取引
- 電話勧誘販売
事業者が電話で勧誘を行い、申し込まれる取引
- 連鎖販売取引
個人が販売員となって勧誘を行い、さらに次の販売員に勧誘をさせ、連鎖的に商品の販売または役務の提供を行う取引
- 特定継続的役務提供
継続的な役務の提供およびそれに対する高額な対価の取引
以下の7つの役務が対象となる
1.エステティック
2.美容医療
3.語学教室
4.家庭教師
5.学習塾
6.パソコン教室
7.結婚相手紹介サービス
- 業務提供誘引販売取引
仕事を提供すると消費者を誘引し、そのために必要であると商品を販売し金銭負担を負わせる取引
- 訪問購入
消費者の自宅に事業者が訪問して、物品の購入を行う取引
訪問販売法
「訪問販売法」は、前述の「特定商取引法」の前身となっている法律です。正式には、「訪問販売等に関する法律」と言います。
同法では、当初、訪問販売・通信販売・連鎖販売取引などが規制の対象とされていました。しかし、制定以降様々な形の消費者トラブルに対応するために、キャッチセールスやアポイントメントセールス、特定継続的役務提供など、規制対象となる取引が追加されていったという経緯があります。
割賦販売法
「割賦販売法」は、割賦販売つまり“代金の分割支払いにより販売する方式の取引について定めた法律”です。
クレジットカード支払いによる取引も対象です。消費者および販売業者、クレジットカード会社の三者に関わる法律で、カード情報の漏洩防止や偽造カードの不正利用防止など、セキュリティ対策の強化が目的となっています。
実情に合わせた改正が行われ、消費者がより安全にクレジットカードを使用した取引を行えるようになっています。
消費者保護法における企業の責任とは?
消費者保護の観点から規制されている消費者保護法に対し、企業はどのように対応すべきでしょうか。ここからは企業が果たすべき責任について説明していきます。
消費者の誤認を招かない
まず、消費者が商品やサービスを選択および購入する際に、“誤認を招かないようにする”という点に配慮することが大切です。
例えば、消費者契約法の断定的判断の提供に当てはまる「必ず」、「絶対」という言葉を使わなかったとしても、消費者が断定的だと捉えられるような説明をすれば、法に抵触する可能性があります。
そのため、事業者がたとえ「必ず値上がりするだろう」と考えたとしても断定的な説明は避け、「実績ではこれくらい値上がりしている」というような説明をするのが望ましいです。
また、広告表示についても消費者が誤った認識を持ってしまうような表示を避ける必要があります。故意的でなくても、販売促進のためにと抵触してしまうおそれがありますので慎重に対応する必要があります。
消費者の選ぶ権利を阻害しない
“消費者が商品やサービスを選択する権利を阻害しない”ということも重要です。
例えば、エステの体験に来た消費者に対してしつこく勧誘することで、退去妨害に該当する可能性があります。
自宅に訪問した場合に関しても、「帰ってください」と伝えたにもかかわらず帰らなければ違法行為になってしまいます。明確な言葉でなくとも、間接的に断りの言葉を伝えている場合には同様の問題が生じ得ます。
事業者としては、トラブルになり得る上記のような行為を避けて販売行為を行い、揉め事を事前に防ぐ必要があります。
また、これら法令の知識は経営陣のみならず実際に消費者とコミュニケーションを行う販売員も持つ必要があります。従業員への指導を疎かにせず、消費者保護法によって規制される行為や内容、留意しなければならない点などを徹底して教育を行いましょう。必要に応じてセミナーに参加したり勉強会を開いたりすると良いです。
消費者保護法に違反することのデメリット
最後に、消費者保護法に違反した場合のデメリットについて説明していきます。
消費者庁等の官公庁から行政処分を受ける
消費者保護法に違反した場合、行政処分を受ける可能性があります。
例えば、特商法を例にとってみると、違反行為が発覚をすると業務改善指示や業務停止命令、業務禁止命令を受ける可能性があります。さらに、行政処分を受けることで事業者名および処分内容などが公表されてしまいます。
また景品表示法に関しては、消費者庁は事業者への事情聴取や資料の収集などを行い、違反が疑われる行為について調査を行い、その結果違反であると認められたときには「措置命令」が出されます。この措置命令は、消費者庁や都道府県が違反した事業者に対して命令を出すことを指し、例えば違反内容を消費者に周知すること、再発防止を講ずること、違反行為を繰り返さないことなどが命じられます。
さらに、課徴金の対象となる行為を行った事業者に対してはペナルティとして課徴金の納付命令が出されます。これは、売上金額が5,000万円以上、課徴金額が150万円以上の場合に課されるペナルティです。
ただし、事業者が自主的に消費者に返金をした場合には、課徴金が減免もしくは免除となることもあります。
刑事責任を問われる可能性がある
行政処分を受けるだけでなく、刑事責任を問われる可能性もあります。
例えば景品表示法に違反すると、前述のように消費者庁から措置命令が行われますが、この命令に従わない者に対しては「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」を科すことができる旨法定されています。
さらに、法人に対しても「3億円以下の罰金」という刑罰が法定されています。
また、取引の際に事実と異なることを告げる不実告知や、故意に事実を告げない故意の不告知など、特商法の不当な勧誘行為に該当する場合については「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」が法定刑として規定されています。
刑事罰を課されないためにも、違反に関する通知を受けたなら速やかに対応し、指示に従うことが大切です。顧問弁護士への相談も行いましょう。
社会的信用をなくす
行政処分や刑事処分により経済的な損失を被るだけでなく、社会的な信用を失くすことにも繋がります。
行政処分や刑事罰を受ければ事業者名や違反内容などが公表され、それがメディアを通して一般消費者にも報道されます。消費者保護に関する法令に違反している事業者というのは、一般消費者、社会全体から見てかなりイメージが悪く、今後の事業に大きな影響を及ぼすことでしょう。
そして失った信用を取り戻すのは簡単なことではありませんので、日頃から注意して販売活動を行わなければなりません。
消費者保護法についてお困りの場合は当事務所へご相談ください
消費者保護に関するルールがますます強化されており、大変かもしれませんが事業者もその規制に順応していかなければなりません。
「具体的にどのような対策を講ずるべきかわからない」「何から取り組めば良いのかわからない」などと消費者保護法に関する悩みを抱えている方は、問題が深刻化する前にお早めに当事務所へご相談ください。
措置命令や課徴金納付命令が命じられても、すばやく対処することで課徴金を減免できる可能性があります。また、行政処分のみならず刑事責任を問われる可能性もあるため、早急な対処が重要です。
また、問題があるまま放置してしまうと、さらに大きなトラブルに発展して取り返しがつかない事態に陥ることも考えられます。違法な状態を是正し、健全な事業活動を行うためにも一度当事務所にてご相談いただければと思います。