契約不履行か詐欺か―契約トラブルで困らないための判断基準、違いについて
商品やサービスの提供に問題が生じた際、それが単なる「契約不履行」なのか、あるいは民法上の「詐欺」として扱われる可能性があるのか、この線引きは事業者にとって大きな問題です。
具体例を交えながらここで契約不履行と詐欺の判断基準を解説し、両者の違いを整理していきます。
契約不履行が起こる典型例
契約不履行とは、「当事者が契約で定めた義務を果たさないこと」を意味します。
たとえば製品の納品が遅延する、サービス品質が不足している、支払いが遅滞しているなど、程度はさまざまですが日常的に遭遇する可能性のある事象といえるでしょう。
詐欺との区別においてもポイントになるのが、「必ずしも悪意が存在しない」という点です。製造ラインのトラブルで納期が遅れた、想定外の需要増により在庫が不足した、システム障害でサービス提供が一時停止したなど、事業者側の過失や不可抗力によって生じることも少なくありません。
帰責事由の有無が責任を左右する
契約不履行における事業者の責任は、「帰責事由」の有無によって判断されます。
帰責事由とは、その結果を招いたことについて責任を負うべき事由のことで、故意または過失がこれにあたります。
そこで天災や予測不可能な第三者の行為など、事業者側が管理できる領域を超えた原因により不履行となってしまったケースでは、基本的には責任を問われません。
民事上の詐欺とは
民事上の詐欺とは、「相手を欺いて錯誤に陥らせ、それによって意思表示をさせる行為」を意味します。
刑法上の詐欺罪とは異なり、民事では契約の取消事由として位置づけられています。
成立には「欺罔行為」、つまり騙す行為が必要です。単なる誇張表現や営業トークの範疇を超え、相手方の判断を誤らせる意図的な虚偽の情報提供があるときに詐欺が成立します。
※欺罔行為には、積極的に虚偽の説明を行うパターンもあれば、不作為による欺罔(重要な欠陥を意図的に隠すなど)のパターンもある。
契約不履行と詐欺に共通する要素
契約不履行と民事上の詐欺は、どちらも契約関係に重大な影響を与える事象であり、いくつかの共通する要素も持っています。
共通点 | 詳細 |
|---|---|
損害賠償責任の発生 | ・両者とも損害賠償請求の対象となり得る。 ・債務不履行に基づく損害賠償(民法415条)、詐欺の場合であれば不法行為に基づく損害賠償(民法709条)によっても、消費者から賠償金を求められる可能性がある。 ・賠償の範囲には、実際に発生した損害(積極損害)だけでなく、得られたはずの利益(消極損害)が含まれる可能性もある。 |
契約関係の終了 | 契約不履行では「契約の解除」により、詐欺では「契約の取消し」により、契約関係が終了することがある。 |
事業者としての信用失墜 | ・契約不履行も詐欺も、消費者からの信頼を損なう。 ・SNSや口コミサイトを介して直接の取引相手以外にまでその影響が広がる可能性もある。 |
ただしリスクの程度については両者に差が生じることもあるでしょう。たとえば悪意のない契約不履行と意図的に行われる詐欺とでは、相手方の感じ方には大きな差があります。そのため形式上は損害賠償請求ができるなどの点で同じだとしても、詐欺の方が信用を低下させるでしょうし、企業イメージもより悪くなってしまうでしょう。
契約不履行と詐欺の相違点
契約不履行と詐欺の主な違いとして以下の点が挙げられます。
- 故意(悪意)の有無
- 法的効果の違い
- 立証責任
各相違点について見ていきましょう。
故意(悪意)の有無
本質的な違いは、故意(悪意)の有無にあります。
契約不履行は過失や不可抗力によっても生じうる一方、詐欺は相手を欺く意図、すなわち故意が不可欠の要件です。
この違いは、上述のとおり社会的評価にも大きな影響を与えます。過失による契約不履行は「ミス」として理解される余地がありますが、詐欺は「悪質な行為」として扱われ、場合によっては刑事責任を問われる可能性もあります。
法的効果の違い
契約不履行がきっかけとなり契約関係が終了する可能性がありますので、この点は詐欺と共通するとも考えられます。
しかし厳密に見てみると、それぞれの法的効果には違いがあります。
- 詐欺による「取消し」
- 契約が遡及的(過去の行為時点にさかのぼって)に無効となる
- 善意の第三者(詐欺の事実を知らない他人)には対抗できない
- 契約不履行による「解除」
- 継続的な契約については将来に向かって契約関係が消滅する
- 原状回復義務が生じることもあるが、将来に向かって消滅したときは履行部分について有効
なお、「善意の第三者に対抗できない」とは、「詐欺を理由に契約を取り消すと困る人が出てくる」というシーンで問題となります。
たとえばAがBに騙されてある物品をBに買い取ってもらい、その後BがCへと転売したとしましょう。本来、Aは詐欺を理由に契約を取り消して物品を取り返すことができるところ、Cが詐欺の事実を知らずその点について過失もないのであれば、Aは契約を取り消して物品を取り返すことができません。
立証責任
訴訟における立証責任(自身の主張を受け入れてもらうために証明を要する側)も、両者で異なります。
契約不履行の場合、事業者側が帰責事由の不存在を立証しなければなりません。事業者側より消費者側が有利といえるでしょう。
これに対し詐欺の場合、消費者側が欺罔行為の存在や因果関係を立証しなければなりません。契約不履行を証明するより難易度が高いため、一般的には消費者側が不利と考えられます。
契約不履行や詐欺によるトラブルを防ぐには
契約不履行や詐欺に関して消費者からクレームを受け、訴訟問題など法的紛争を起こさないようにするには、日頃から適切な運営ができるよう体制を整えておくことが大切です。
基本的な予防策である以下の点には留意しましょう。
- 製品・サービスの性能や品質について、客観的かつ正確な情報を提供するよう徹底する
- 実現可能性が不確実な事項については、断定的な表現を避ける
- 契約書と口頭説明の内容に齟齬が生じないよう、社内での情報共有を徹底する
- 広告表示と実際の商品・サービスの一致を確認する
これらは消費者保護法の観点からも重要な取り組みです。以上の運営体制が整っていない場合、契約不履行や民法上の詐欺に該当しなくても、契約の取消権が発生する可能性があります。
また、根本的な取り組みとして、組織全体で法令遵守の意識を醸成することも大切です。ノルマの達成を重視するあまり過度な営業をしてしまうことは避けるべきです。従業員に対して教育を行うことに加え、そのような環境を作り出さないよう企業全体で向き合いましょう。










