悪質なクレームをする客への対応|入店禁止(出禁)にできる?
店舗におけるクレーム対応においては、従業員の安全確保および業務の正常な遂行を考えなくてはなりません。顧客が離れてしまわないよう配慮しながら対応することも重要ですが、クレームの内容が悪質なら、時には毅然とした態度で臨むことも必要です。場合によっては入店禁止を言い渡すことも検討すべきでしょう。
「店舗で悪質なクレーマーに対しどう対処すべきか」「入店禁止にすることは可能か」といった点を事業者目線で解説していきます。
店舗で行われる悪質なクレームの例
一般的な苦情や要望と、悪質なクレームには明確な違いがあります。正当な苦情は店舗改善の機会となりますが、悪質クレームは業務を著しく妨害し、時として犯罪的な要素を含みます。
以下の例が、店舗で比較的よく見られる悪質クレーマーの典型的なパターンです。
- 大声で怒鳴る、暴言を吐くなどの威圧的な行為を伴う
・・・過剰に声を荒げる、従業員を侮辱する言葉を投げかける、土下座を強要するなど感情的になって攻撃を行うパターン。他の客に不安を与え、店舗の平穏な営業を妨げまる。 - 同じ内容を執拗に繰り返す
・・・すでに対応を行っているにもかかわらず何度も同じ内容を蒸し返し、長時間の対応を強要する。業務に支障をきたす典型的なパターン。 - 理不尽な要求や補償の強要
・・・商品の無料提供や過剰な金銭補償を要求するなど、通常の対応範囲を大きく逸脱した要求を行うパターン。 - SNSでの晒し行為をちらつかせる
・・・「SNSで拡散する」「ネットに書き込む」などと脅し、要求を通そうとするパターン。近年増加傾向にある手口。 - 従業員をスマートフォンで撮影する
・・・説明中の従業員を許可なく撮影し、威圧や脅しの手段として利用するパターン
悪質クレームへの基本的な対応方針
悪質クレームには、「毅然とした態度」そして「冷静な判断」に基づいて対処することが重要です。こちら側まで感情的にならないよう気を付け、法的リスクも考慮しながら、組織として適切に対処することが求められます。以下のような段階的な対応を実施していきましょう。
初期対応での注意点
クレームの初期段階での対応がその後の展開を大きく左右します。
そこで、悪質なクレームをつけられる可能性があると判断した時点で「複数人で対応」しましょう。これにより客観的な状況把握がしやすくなりますし、スタッフの身の危険も回避しやすくなります。
また、「クレームの内容を正確に記録」することも大事です。話の要点をメモし、顧客の主張や要求を明確化します。感情的にならないことはもちろん、事実確認に徹して、何が・いつ・どのように起きたのかを冷静に整理していきましょう。
社内での情報共有
悪質クレームは、スタッフ個人ではなく組織として対応することが重要です。そのためにも、クレームを受けたときは社内で情報共有するような仕組みを作っておきましょう。
発生した事案を速やかに上司に報告すること、同様の事案の発生に備えて店舗間や関連部署に情報を共有すること、を徹底します。
警察への通報が必要なケース
もし、以下のような行為がみられるときは警察に通報することも検討してください。
- 暴力行為や脅迫
・・・身体への接触や物を投げつける、暴力をちらつかせるなどの行為があった場合。 - 執拗なつきまとい
・・・営業時間外の押しかけや、スタッフへのストーカー行為など。 - 営業妨害
・・・長時間の居座りや大声での威嚇により、ほかの客の利用を妨げている。
警察へ通報することでそれ以上エスカレートするのを防ぐ効果もあります。特に暴力的な行為がみられた場合はスタッフの安全確保の観点からも、躊躇せず通報をすべきです。
入店禁止(出禁)も検討
「クレームの内容が非常に悪質である」「悪質なクレームが継続的に行われている」などの問題に悩まされているのであれば、“入店禁止(出禁)”の措置も選択肢に入れると良いでしょう。
入店禁止を命じることは対策として有効です。入店禁止措置を講じることで、その後当該顧客が強引に店舗に入ろうとした際に建造物侵入罪を根拠に通報することもできますし、併せて迷惑行為もあったときは損害賠償請求も行いやすくなるでしょう。
ただし、入店禁止措置が原因で消費者トラブルが起こるおそれもあるため、その判断は慎重に行うべきです。
入店禁止の措置は違法ではない
入店禁止とする措置は違法ではありません。
そもそも対消費者との契約においても法の基本的な考え方である「契約自由の原則」は適用されますので、企業側にも契約をしない自由は認められています。つまり、店舗には取引相手を選択できる権利がありため、特定の客との取引を拒否することもその権利の一環として認められているということです。
「企業には施設を適切に管理する義務がある」という観点から適法性を説明することもできます。企業は店舗内における従業員や顧客の安全を確保する必要があり、不適切な管理によって危害が及んだときには企業が損害賠償請求を受けることもあります。その裏返しとして、適切な管理をするため特定の人物の入店を制限することも認められるのです。
入店禁止の判断は慎重に
入店禁止そのものが違法な措置ではありませんが、状況によっては店舗側が法的リスクを負う可能性もあるため慎重に判断しなくてはなりません。
客観的に見てあきらかにいきすぎたクレームがあったのなら入店禁止の措置も正当化されると思われますが、当該措置の理由が人種・国籍・性別・障害の有無などにあるときは違法な差別的取り扱いと評価される可能性があります。
また、入店禁止の判断が行き過ぎた制裁となっているケースにも要注意です。些細なトラブル、一度限りの言い争いを理由に即座に入店禁止を通告するような対応は、社会通念上、相当とは認められない可能性があります。
かえって大きなトラブルを引き起こす危険性があり、その事実が広まることで企業のイメージが悪くなることも考えられます。そこで入店禁止措置の判断に迷う場合や法的なリスクが懸念されるケースでは、事前に弁護士に相談することをお勧めします。