カスハラとクレームの違いは?会社が決めておくべき方針・基準について
会社は、理不尽に行われるクレームから従業員を守らなくてはなりません。顧客からの正当なクレームと区分して昨今は「カスハラ」と呼ばれたりもしますが、従業員を守るためにもまずはカスハラとクレームの違いを整理しておく必要があるでしょう。そのうえで、会社が取るべき対策についても考えていく必要があります。
会社には従業員の安全を守る義務がある
会社には従業員が安全に働ける環境を整備し、維持する義務があります。これは労働契約法にも明確に定められていることです。
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
従業員の安全を確保することは、第一に法令上の要請として厳守する必要がありますが、会社が安全確保に取り組むべき理由はほかにもあります。従業員が安全に、かつ安心して働ける環境を整備することは、間接的に次のような利点にもつながるためです。
- 生産性の向上
・・・心理的な不安や恐怖を感じることなく働ける環境だと、従業員も本来の能力を十分に発揮できる。 - 人材の確保・定着
・・・働きやすい環境は優秀な人材の獲得や定着率の向上に寄与する。特に近年は職場環境の質が、就職先選択における重要な判断基準として注目される傾向にある。 - 企業価値・評判の維持
・・・従業員の安全や権利を軽視する企業は社会からの信頼を失い、評判を大きく損なう可能性がある。反対に、従業員を大切にする企業文化はポジティブな企業イメージの構築につながる。
以上の理由から、会社は、顧客のハラスメントから従業員を守る施策を講じる必要があるといえます。
カスハラとクレームの違い
カスハラとは、カスタマーハラスメントの略称です。顧客が従業員に対して行う、業務の範囲を超えた不当な要求や不適切な言動を指します。近年、接客業を中心に深刻な問題として認識されており、従業員のメンタルヘルスや離職率に大きな影響を及ぼしています。
一方、クレームは商品やサービスに対する意見や苦情全般を指す言葉です。常に悪い行為ではなく、むしろ顧客側の正当な権利の行使ともいえます。会社としてもクレームを受け入れることで、より良い製品・サービスを提供するための有益な情報を獲得することができるでしょう。
しかし実際の現場では、カスハラとクレームの境界線が曖昧になることも少なくありません。正当なクレームに対しては真摯に向き合うことが重要ですが、カスハラを受け入れると従業員の安全が十分に守れません。
両者に明確な定義はありませんので、以下に掲げるさまざまなポイントを総合的に考慮して各社判断を下しましょう。
両者の違い | 正当なクレームの傾向 | カスハラの傾向 |
---|---|---|
要求の合理性 | 商品やサービスの品質、価格、対応などについて、社会通念上妥当な範囲内での要求 | 過度な要求や、サービスの範囲を大きく逸脱した要求 |
態度・言動 | 感情的になることはあっても、基本的に人格を否定するような言動は含まない | 脅迫・暴言、人格否定や差別的言動など、相手を傷つける意図を含む |
目的の正当性 | 問題の解決や改善を求める建設的な意図がある | 補償金の不当な要求や、感情的な八つ当たりなど、建設的な目的が見られない |
要求の一貫性 | 主張や要求に一定の一貫性がある | 言うことが二転三転する、または要求が際限なくエスカレートする |
これらの基準は絶対的なものではなく、状況に応じて判断することも大事です。また、最初は正当なクレームとして始まったものが、対応の過程でカスハラに発展するケースもあることにも注意しましょう。
会社が決めておくべきこと
カスハラから従業員を守るため、会社は次のような方針や基準を定め、組織全体で共有・実践していきましょう。
《 取り組むべき内容 》
- 判断基準の設定
- 上記の正当なクレームとの一般的な違い、そして自社の事業内容や顧客との関わり方の実情を踏まえ、カスハラと判定する基準を設定する。
- 具体的な行為や発言の例を示すことで現場の従業員が判断しやすくなるよう工夫する。
- 組織的なフォロー体制を整える
- カスハラ防止方針を全社的に周知する。
- 相談窓口を設けて従業員が気軽に相談できる環境を整える。
- カスハラには複数人で対応するなど具体的な対応方法を検討する。
- 従業員への教育
- カスハラや基本的な対応方法に関する知識を身につける。
- 実践的な教育を行い、対応スキルを向上させる。
- 対外的な啓発
- カスハラ防止に関する方針を社外向けにも示すことで予防を図る。
これらの方針・基準を整備することで、会社は従業員を守りつつ適切な顧客対応を行うことができます。特に一般消費者との接点が多い業種ではカスハラ対策が重要になってきますので、専門家も活用しながら具体的な予防策を考えていくと良いでしょう。