消費者からのクーリングオフに応じなくて良いケースとは
消費者が安全に商品・サービスの利用等ができるように、特にトラブルの起こりやすい取引類型へ規制をかけた法律が特定商取引法(特商法)です。
同法では企業に対してさまざまな義務を課すとともに、消費者側に契約解除ができる権利も与えています。
期間制限付きで契約解除ができる仕組みを「クーリングオフ」と呼び、正当な求めに対して企業は解約に応じなければいけません。
しかし消費者との契約すべてに適用されるわけではありません。「クーリングオフに応じなくて良いケース」もあるのです。
当記事ではこの点について言及し、企業の方に向けて解説をしていきます。
クーリングオフに応じなくて良いケース
クーリングオフは、①特定の取引に基づく契約、かつ②特定の期間内であれば消費者が無条件に契約解除できるという制度のことです。
無条件ですので消費者側が違約金を支払う必要はありませんし、その他負担を負うこともありません。
しかし、前提にある①と②を満たしていないのであれば、企業側はその求めに応じる必要はありません。
クーリングオフが適用される取引ではない
企業の営業担当が消費者の自宅へと訪問し、そこで物品の販売を行ったとしましょう。
消費者が「購入する」との意思表示を発して契約が成立したとしても、8日以内であればクーリングオフにより契約解除ができてしまいます。
販売を行ったのが消費者の自宅ではなく路上や喫茶店であっても同様です。これは特商法上の「訪問販売」にあたる取引であり、同法の規定に基づいてクーリングオフの適用対象となっています。
しかし同じく特商法で定義されている「通信販売」であってもクーリングオフの適用対象とはされていません。そこで、消費者自身が企業の通販サイトへアクセスして物品を購入した場面においては、「クーリングオフをしたい」と求められても企業は応じる必要がありません。
特商法の対象ではない、実店舗での一般的な買い物も同じです。
クーリングオフが適用されると定められていませんので、企業は求められても応じなくて問題ありません。
消費者との契約すべてがクーリングオフの対象にはならないことは覚えておくと良いでしょう。
なお、クーリングオフの適用対象ではなくても不当な勧誘等に基づく契約に対しては広く「消費者契約法」に基づく取消権が消費者には認められます。
こちらは対消費者との契約すべてに適用されますし、解約できる期間もより長いです。
クーリングオフの期間を過ぎている
企業が違法行為をしていなくてもクーリングオフによる解約はできてしまいますが、期間が「8日間」「20日間」と短く設定されています。この期間を過ぎてクーリングオフを求めてきたとき、企業はこれに応じなくてかまいません。
ポイントは2つです。
- クーリングオフ期間の起算点:
消費者に契約書等の法定の書面を交付した日 - 8日間と20日間のどちらが適用されるか:
- 8日間 → 訪問販売、訪問購入、電話勧誘販売、特定継続的役務提供
- 20日間 → 連鎖販売取引、業務提供誘引販売取引
取引類型 | クーリングオフ期間 | 取引例 |
---|---|---|
訪問販売 | 8日間 | 消費者の自宅等へ訪問し、販売を行う。 |
訪問購入 | 消費者の自宅等へ訪問し、物品の購入を行う。 | |
電話勧誘販売 | 電話で消費者を勧誘し、電話中に申し込みをしてもらう。 | |
特定継続的役務提供 | 一定期間を超える、エステや美容医療、学習塾、パソコン教室など特定の役務に関する5万円以上の取引。 | |
連鎖販売取引 | 20日間 | マルチ商法(消費者を販売員に勧誘して、その人物にさらに販売員の勧誘をしてもらう)。 |
業務提供誘引販売取引 | 仕事の勧誘を行い、その仕事のために必要だとして物品を購入してもらう取引。 | |
通信販売 | 適用なし | ネットショップでの物品販売。 |
クーリングオフに関する企業側の注意点
クーリングオフに関して、「企業側は法定の書面を交付すること」「消費者から正当にクーリングオフを求められたときは無視しないこと」、そして「仮にクーリングオフが適用されない場面でも消費者契約法に基づく取消しの可能性があること」には留意しましょう。
必ず書面を交付すること
取引内容の詳細を記した書面を交付するなど、法定の書面交付がなされたタイミングからクーリングオフの期間は進行し始めます。
口頭で契約する意思が示された時点から起算するわけではありません。
そのため企業が書面交付の義務を果たさない場合、クーリングオフを受けるリスクにさらされ続けてしまいます。
早めに契約解除のリスクを回避するためにも、法定の書面は必ず交付しましょう。
なお消費者が承諾をしてくれれば、紙ではなくデータ(電磁的記録)の交付でこの義務を果たすこともできます。
消費者からの求めを無視しない
当然のことではありますが、クーリングオフを求めてきた消費者を無視してはいけません。
無視している間にクーリングオフ期間を過ぎても契約解除ができなくなるわけではありません。
消費者には無条件で解約する権利が与えられており、企業側に交渉や拒否の余地は原則としてないのです。
また、無視をしているとペナルティを受けることになります。
行政処分として業務改善の指示を受けることもあれば、悪質な場合だと業務停止命令を受けることもあります。
消費者契約法に基づく取消しの可能性
契約なかったことにされるリスクはクーリングオフ以外でも起こり得ます。上述した通り、消費者契約法の規定に基づく取消権にも留意しないといけません。こちらは企業側に問題がある場合に限定されるものの、取引類型の面では制限がありません。
例えば次のような場合に、消費者は取消権を行使することができます。
- ウソの告知をして契約に申し込ませた。
- 不確かであるにも関わらず「絶対に値上がりする」と断定して契約に申し込ませた。
- 消費者が不利になることをあえて伝えないまま契約に申し込ませた。
- 「契約しない」と伝えている消費者に対して、消費者の自宅に居座って(または消費者が退去しにくい場所で)勧誘を続けて契約に申し込ませた。
消費者とのトラブルは当事務所にご相談ください
クーリングオフをめぐって消費者とトラブルになることがあります。
クーリングオフが使えない契約、期間であれば対応する必要はありませんが、そのルールを消費者が理解してくれないと揉めてしまいます。
そこで「消費者との関係において困っていることがある」、あるいは「クーリングオフなど消費者保護法のルールを確認したい」という場合には一度当事務所へご相談いただければと思います。