【特商法】過量販売の制限とはどのようなものなのか? よくある事例も紹介
公正な取引や消費者の保護を図る特商法では、「過量販売」という行為にも制限をかけています。
事業者は同法の内容をよく理解し、過量販売と評価されるような行為は避けなくてはなりません。
事業を行っていると数多の法令が絡んでくるため、すべての規定内容を理解していくのは難しいと思われます。
しかし、訪問販売や電話勧誘販売を行っている事業者は過量販売の制限に抵触してしまうリスクと隣り合わせであるため、ぜひ一読していただければと思います。
過量販売とは?
過量販売に関する規制は特商法(特定商取引に関する法律)に定められています。
訪問販売において、「通常必要とされる量を著しく超える商品を購入する契約」を締結したとき、その後1年間は解除(または申込みの撤回)ができるという内容です。
※消費者側に当該契約を結ぶ特別の事情があるときは別
平成28年の改正法では適用範囲が広がり、訪問販売のみならず、電話勧誘販売にもこの規制が及ぶようになっています。
では「過量販売」とは具体的にどのような行為を指すのか、以下で説明していきます。
1度の売買契約で大量に販売すること
過量販売に該当する行為の1つが、「1度の売買契約で大量の販売をすること」です。
一般常識に照らして、日常生活で必要になる量を著しく超えると判断できる商品やサービスを販売する行為が過量販売に該当し得ます。
例えば、1人暮らしをしている方に対して1度に複数の布団セットを売る行為は過量販売と評価される可能性があります。通常、1人暮らしをするのに何セットもの布団は不要だからです。とはいえ2セットを購入したとして極端に不自然な行為ではありませんし、必要最低限を上回る購入があったからといって常に過量販売にあたるわけではありません。
他に、相当期間に使い切ることが困難な量の食品、化粧品を買わせることも過量販売に該当する可能性があります。
数年分の学習教材をまとめて買わせる行為も同様です。
1人の消費者に何度も訪問・勧誘を行い購入させること
過量販売かどうかは、1回あたりの契約内容で判断するだけでなく、一連の流れにも着目して判断されます。
そこで、「1人の消費者に対して訪問や勧誘を繰り返し、何度も購入させること」も過量販売に該当することがあります。
同じ業者が何度も自宅にやってきて、「前回に購入してもらったものより良い商品が出ました」などと勧められ、繰り返し契約させられるケースが典型例です。
被害に遭っていることに気付きにくい、1人暮らしの高齢者が過量販売の対象になっていることが多いです。「久しぶりに実家に帰ったところ、到底1人では飲みきれない健康食品が置かれていた。1人暮らしをしている母親に聞いたところ、訪問販売を断り切れず何度も契約してしまっていたらしい。」といったことも珍しくありません。
過量販売の事例
よくある過量販売による問題を以下3つの事例にまとめてみました。
学習教材を数年分一括で購入させる
学習教材について、数年分を一括で購入させるという過量販売も実際に起こっています。
<学習教材に関する過量販売の事例>
- 小学3年生の息子のために、学習教材を訪問販売で購入。復習が重要との説明を受けて小学2年生・3年生の分も購入。その後別の担当者がやって来て小学4年生~中学3年生までの教材セットも勧められた。当初断っていたが強引な勧誘により契約をしてしまった。
- 「学力テストを受けませんか」との電話勧誘があり、テスト答案を事業者に送付。その後、テスト結果を持ってやって来た担当者に「テスト結果が悪くこのままだと落ちこぼれてしまう」などと言われ、長時間に及ぶ学習教材の勧誘を受けた。
こうした学習教材に関する過量販売では、はじめテストを受けさせて、その解説やアドバイスを行うという名目で訪問してくることがあります。教材販売という目的をあえて隠して訪問し、訪問後は不安をあおるため「このままだと授業についていけなくなる」などと説明をしてくるのがよくあるケースです。
また、「体系的に勉強していくのが大事」といった理由でまとめて大量の教材を渡されることもよくあります。
小学校低学年であるにもかかわらず、小学校卒業までの教材、さらには中学3年間の教材まで勧めてくることもあります。
セミナー等に勧誘して高価なものを何度も購入させる
自宅への訪問ではなく、セミナーに誘ってその場で高価なものを購入させるというタイプの過量販売もあります。
<セミナーを利用した過量販売の事例>
- 健康器具を販売する業者が健康に関するセミナーを実施している。母親がこのセミナーに度々参加しており、そのたびにさまざまな商品を購入して帰ってくる。
- 着付け教室のチラシを見たことをきっかけに、着付け教室に週1回通うことになった。その後先生から着物のセミナーについて勧誘を受けて参加してみたところ、セミナー後、販売員から商品の購入を勧められ、断りきれずに購入をした。翌月もセミナーに誘われて長時間の勧誘を受けた結果、断れずに商品を購入してしまった。
このように、セミナーに勧誘し、その場で断りにくい雰囲気を作って何度も購入させるという手口もあります。
特に、セミナーに勧誘してくる人との関係性ができてしまっていると、セミナーへの参加自体も断りにくいという問題があります。
リフォーム契約を結び不要な工事まで行う
商品の購入ではありませんが、自宅のリフォームに関する過量販売が行われることもあります。
<リフォーム契約に関する過量販売>
- 水道水の点検に来た業者の人に勧められ、浄水器の契約を交わした。数日後の集金時には「温泉と同じ効果が得られる」とゲルマニウム温泉器を勧められ、断りきれずにこちらも契約。さらにその後も、「水道管の寿命を伸ばすため」「これまで購入した機器のメンテナンスのため」などと説明されて高額の契約を何度も交わしてしまった。
- 訪問販売を受けて屋根の塗装工事を契約後、勧められるまま外壁塗装の契約も締結。その後も関連する工事を何度も交わすことになった。
- 内装工事業者の訪問を受け、当初想定していなかった室内設備に関しても次々に交換の契約をした。
住宅のリフォーム工事では、1件あたりの工事にかかる価格が大きい上、工事対象がさまざまな部位に及ぶことも多いためトータルの契約金額が膨れ上がりやすいです。また、日用品でもないため消費者側が適正な販売をされているかどうかの判断が難しいという問題もあります。
過量販売の要件の1つである「日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える」(超過要件)の判断についても容易ではありません。
そこで「床下や屋根、基礎、外壁」などの消費者が直接的には使用しない部位に関して、3つ以上の工事を行う契約の勧誘では、この要件を満たすと考えられています。
さらに、複数の契約を単一の事業者が勧誘して超過要件を満たすときは、超過要件を満たしていることに対する認識があるものと考えられています。
過量販売を行った場合のデメリット
過量販売を行っている事業者は、販売方法を改め直す必要があります。消費者に過大な経済的負担を負わせてしまいますし、消費者からの信用を失うことにもなりかねません。
さらに、「適格消費者団体から差止請求を受ける」「行政処分を受ける」といったデメリットもあります。
適格消費者団体から調停等の交渉が入る
不特定多数の消費者の利益守る、「適格消費者団体」という消費者団体があります。
差止請求権行使の適格性を持つ団体として内閣総理大臣の認定を受けた法人のことです。
過量販売など、特商法に反する行為、その他消費者保護法に抵触すると疑われる行為を働いていると、この適格消費者団体から「過量販売を止めるように」と求める調停等の交渉が入ることがあります。訴訟にまで発展することもありますので注意が必要です。
また、過量販売を含む特商法違反が認められるとき、状況によっては社名等が公表されるなど、さまざまなペナルティを受ける可能性もあります。
管轄庁から行政処分を受ける
過量販売など、消費者に経済的損失を与える恐れのある取引を行っている場合、行政処分を受けることがあります。
業務改善の指示を受けたり、業務停止命令を受けたりする可能性があります。
最大2年もの業務停止を命じられることもあり、そうすると事業者としては大打撃を受けてしまうことでしょう。
短期間の停止であっても今後の企業活動に重大な影響が及びます。処分を受けたことが世間に公表されるだけでも相当なダメージを負ってしまいます。
また、法人に対する処分だけでなく、取締役などの役員個人に対して処分が下る可能性もあります。
過去には、過量販売等を行った法人に対して訪問販売に関する業務の一部の停止を命じた上で、取締役個人に対しても「法人に停止を命じた範囲の業務を新たに始めること」「当該業務を行う法人で、当該業務を担当する役員になること」の禁止を命じています。
管轄庁等から連絡を受けたときは当事務所にご相談ください
過量販売に関して、管轄庁から呼び出しを受けたり、適格消費者団体から差止請求を受けたりすることがあります。
顧客から直接クレームを受けることもあるかもしれません。
こうした連絡を受けたときは、当事務所にご相談ください。
過量販売などが絡む消費者問題は解決が簡単ではない上、対応の遅れが大きな損失につながるおそれがあります。
自社の将来性、経営者個人の将来にも関わってくる重大な問題です。消費者保護法に精通した企業法務のプロに頼り、早期解決を目指しましょう。