消費者契約法における取消権とは?企業が気を付けるべきポイントを解説
消費者契約法に基づく取消は一般消費者を保護する仕組みとして認められています。悪徳業者から守るために重要な役割を担っていますが、企業からすると取消権の発生はリスクでもあります。悪意に基づく行為がある場合に限らず、過失によって生じることもありますので、一般消費者との取引を頻繁に行っている企業は同法のルールをよく理解しておく必要があるでしょう。
消費者契約法の取消権とは何か
消費者契約法に定められた「取消権」は、事業者による不適切な勧誘によって消費者が契約を締結した場合に、消費者側からその契約を取り消すことができる権利のことです。
取り消しが認められると契約は最初から存在しなかったものとして扱われます。事業者に故意がなくても、結果として判断を誤らせる行為があったのなら取消事由に該当する可能性があるため要注意です。
企業が警戒すべき取消事由
大きく分けて①消費者が誤認したまま契約を交わしたとき、②消費者を困惑させて正常な判断ができないまま契約を交わしたとき、の2つのケースで取消権が生じます。
- 「消費者が誤認したまま契約を交わしたとき」の例
- 重要事項に関して事実と異なる内容を告げる(不実告知)
- 将来の変動が不確実な事柄を断定的に説明する
- 消費者にとって不利益な事実を告げない(不利益事実の不告知)
- 「消費者を困惑させて正常な判断ができないまま契約を交わしたとき」の例
- 退去を求めてられてもその場に居座る
- 消費者を帰らせないようにする
- 恋愛感情・好意を悪用して契約させる行為
- 高齢による判断能力の低下につけ込んで不安をあおる
- 霊感・超常的能力などを根拠に不安をあおる
- 契約前に損失補償などの債務の内容を実施する
※これらに加え、「過量契約」と呼ばれる、通常必要な分量を著しく超える契約をさせたときにも取消権は発生する。
企業が特に警戒すべきは、過失でも成立する「不実告知」や「不利益事実の不告知」といえるでしょう。これらは営業担当者の知識不足や説明不足から意図せず発生する可能性があります。
不実告知の成立要件
不実告知は、「商品やサービスの重要な事柄に関して事実ではない説明をすること」で成立します。
重要なのは、営業担当者に騙そうという悪意がなくても、結果として事実と異なる説明をしてしまえば取消事由に該当してしまうことです。
成立要件として、まず説明の対象が「重要事項」であることが求められます。たとえば商品の質や用途、価格や取引条件など、消費者の契約締結判断に通常影響を与える事項を指します。
次に、その説明が「事実と異なる」必要があります。これは営業担当者の主観的な評価ではなく、客観的に確認できる事実との相違を意味します。「業界トップクラス」といった曖昧な表現であっても、実際に他社と比較して劣っている場合は該当する可能性があります。
よくある例として、競合他社との比較において自社商品を優位に見せるため事実を誇張する行為、商品の効果や性能について検証不十分な説明をする行為、サービスの利用条件について詳細を確認せずに説明する行為などがあります。
不利益事実の不告知の成立要件
不利益事実の不告知は、「消費者にとって有利な事実を告げながら、関連する不利益な事実を告げないこと」をいいます。
この取消事由は「故意」または「重大な過失」が要件とされています。2019年の改正法施行までは故意のみが成立要件とされていたのですが、消費者保護の観点から成立要件を広げ、事業者側に重大な過失がある場合にも成立するようになりました。
※「重大な過失」とは、少しの注意により容易に気付くことができるものを、漫然と見逃してというような、著しい注意欠如を意味する。
典型例として、不動産の「眺望良好」を謳いながら将来の建設計画を隠す行為、投資商品の利益可能性を説明しながらリスクを説明しない行為、商品の利便性を強調しながら制約条件を説明しない行為などが挙げられます。
取消権行使によるリスクを回避するためのポイント
消費者が取消権を行使する場面では、すでにその方からの信用を欠いてしまっている状態にあります。また、その事実が広まることで社会的な信用にも悪影響が及びます。加えて、契約の取消により返金などの財務上の問題も生じます。
こうしたリスクを回避する上で押さえておきたいポイントをまとめます。特に注意したいのは、過失でも起こり得る上記の問題です。そのほか、営業担当が意図的に不当な行為をしてしまわないようにも対策を講じる必要があります。
契約締結前の説明義務の徹底
説明義務を徹底して履行することが、取消に基づくリスクを回避するためにもっとも大事です。
商品やサービスの特徴、利用条件、料金体系、解約条件などに関してしっかりと説明を行うこと、それだけでなく「消費者が理解できるよう丁寧に説明すること」が求められます。
そのためにも、説明の際は専門用語を多用せず平易な言葉も適宜使用しましょう。必要に応じて図表や具体例を用い、視覚的に分かりやすく伝えるのも良いでしょう。
説明内容について消費者の理解度を確認し、疑問点があれば納得がいくまで説明を続ける姿勢が重要です。
また、説明した内容については後日のトラブル防止のため、書面で記録を残すことも有効です。特に重要な事項については、消費者に署名をもらうなどして、確実に説明したことを証明できる体制を整えることが推奨されます。
営業担当者への教育
営業担当者に対して継続的に教育を行うことも有効です。取消権が生じるケースなどを理解してもらうことが問題の根本的な解決につながるでしょう。
その際、法律の基本的な知識はもちろん、自社の商品やサービスに関する正確な知識、適切な説明方法についても理解するよう研修等を実施すると良いです。
ただし、教育・研修が単なる形式的なものになっては意味がありません。そこで実際の現場で起こりがちなケーススタディを用いるなどして、より理解度を高めるための工夫を凝らしましょう。
書面作成による証拠の確保
自社が適切に説明義務を履行していたとしても、後日相手方から「説明を受けていなかった」などと主張される可能性があります。そのため、可能なら説明を行った事実やその内容を理解したという事実を記録に残すようにしましょう。
たとえば、説明に用いた文書に「□上記内容を理解しました。」などのチェック欄を設け、契約前にチェックおよび署名をもらっておくなどの方法が考えられます。必ずしも紙の文書を利用する必要はなく、端末操作で同様の確認を行い、電子的にその操作記録を残しておくというやり方もあります。
口約束で済ませることは契約当事者双方にとってリスクがあるため、取引金額が大きいなど特にリスクが大きいと思われるケースでは何らかの形で記録を残すようにしましょう。









