企業が消費者トラブルに遭った場合の対処法! 法改正による厳格化と事例別の適切な対応
消費者に商品・製品、サービスの提供をしている場合、対消費者取引に向けて設けられた法令に注意しなければなりません。事業者を相手にしている場合とは異なるルールが適用されますし、法改正もなされているため常に最新情報を仕入れられるようにしておくことも必要です。
ここで消費者トラブルに関して解説し、法改正により近年変わったことと、状況に応じた適切な対処法についても紹介していきます。
消費者保護法関連は近年厳格化している
事業者に比べると一般消費者は交渉力に劣ります。知識も十分でないまま取引を行うケースも多いです。そこで法令により一定の保護規定を設けており、企業が一定の事業を行うにあたり消費者と直接取引をするのなら、消費者保護法関連の知識を身につけておく必要があります。
特に近年は各法令が改正され、より企業にとっては厳格化の方向に進んできています。以下で「景品表示法」「消費者契約法」「特商法」に関する改正について簡単に説明していきます。
CASE1.景品表示法の改正
景品表示法は、2014年の改正により「課徴金制度」が導入されました。
不当表示により商品やサービスの提供をした場合、事業者に経済的不利益として課徴金を課すという制度です。
優良誤認表示や有利誤認表示をした場合、“当該表示の対象となった商品、あるいは役務から生じた売上額の3%(上限3年間)”を課徴金として課すと規定しています。
※課徴金額が150万円未満のとき、事業者に過失が認められないときには課徴金の賦課はない
そのため、商品やサービスを売り出す際には情報の示し方に十分注意を払わなければ大きなリスクを負うことにもなりかねません。このことに留意し、法令に則った表示を行うようにしましょう。
CASE2.消費者契約法の改正
消費者契約法とは、事業者-消費者間で締結される契約に関して、事業者に一定の規制をかけ、消費者の利益を守るための法律です。不当な契約条項を設けたり不当な勧誘をしたりする行為は同法により制限されます。
これまで何度も改正を重ねてきた消費者契約法ですが、平成30年に成立した改正法では、不当勧誘に該当する行為の追加がありました。
まずは「困惑」類型についてです。
消費者に困惑を生じさせる不当勧誘行為につき、次の6つの行為類型が追加されました。
- 不安をあおる告知
消費者が過大な不安を抱いていることを知りつつもその不安をあおり、正当な理由がないにもかかわらず、契約の締結が不安を取り除くために必要であるなどと告げること - 恋愛感情等に乗じた人間関係の濫用
勧誘者に対して好意を抱き、勧誘者も同様の感情を抱いていると誤信していると知りつつ、これに乗じて契約締結をしなければ関係性が終わってしまうことを告げる - 加齢等による判断力の低下の不当な利用
消費者が加齢や心身の故障により判断能力を著しく低下しており、生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りつつ、その不安をあおり、正当な理由なく、契約しなければ生活維持が困難になる旨を告げること - 霊感等による知見を用いた告知
霊感その他実証が困難な特別な能力による知見として消費者に不利益が生じることを示し、不安をあおり、契約締結を迫ること - 契約締結前の契約内容の実施
消費者が契約の申込・承諾をする前に事業者が契約内容の一部を実施。実施前の原状回復を著しく困難にすること - 契約締結前の営業活動に対する補償等
契約前にした事業者の営業活動に関して、正当な理由なく、当該営業活動による損失補償を求めること - 反社会的勢力との関係を匂わせて不当な賠償請求をする
- 家族に危害を加えるような発言をする
- 「悪評を広められたくなかったらお金を払え」などと言う
- 反社会的勢力との関係を匂わせてサービスを無料で提供させる
- 土下座を強制する
- 怒鳴りつけて謝罪文を書かせる
- 要件がないにもかかわらず何度も電話をかける
- 店頭でクレームを言い続けて業務の邪魔をする
- 閉店時間になっても居座り続ける
- 退去を求めても帰らず何時間もクレームを続ける
また、これらとは別に法改正で「不実告知による取消権の要件緩和」も行われました。
消費者の利益になる説明はしつつも付随する不利益を説明しなかったような場合、消費者には当該契約を取消す“取消権”が与えられます。
ただ、従来はこの取消権を行使するには「不利益事実の不告知」に関して事業者の故意が必要とされていました。しかしこれでは取消権行使のハードルが高いため要件を緩和。改正以後は故意だけでなく重過失がある場合にも取消権が行使できるようになりました。
つまり、事業者側の故意はないが、少し気を付ければわかるはずのミスにも気が付かなかったというような過失の程度が重い場合には取消が認められるようになったのです。
CASE3.特商法の改正
特商法とは、消費者との取引の中でも特にトラブルが発生しやすい特定の行為を対象に規制をかけている法律です。
近年の改正でも、通信販売に関する詐欺的商法への対策や、送り付け商法への対策が強化されたほか、デジタル化対応に向けた改正もなされています。
通信販売に関しては、主にサブスク対策として、定期購入でないと誤認させるような表示を禁じています。
送り付け商法に関しては、売買契約に基づかず一方的に送り付けた商品を事業者が返還請求できないようにするなどのルールが整備されています。
社会情勢に合わせた様々なルール変更がなされていますので注意しましょう。
企業側の商品や役務等に問題があった場合の対処法
上記法令に抵触した・企業側の商品や役務などに問題があった、という場面で企業はどのように対処すべきかを説明していきます。
①示談交渉
まずは対消費者との問題を解決するために重要な「示談交渉」についてです。
通常、法令に抵触したり契約上の義務に違反したりしたとしても、いきなり消費者から訴訟提起をされるケースは少ないです。まずは当事者間での協議を通して解決を目指すことになります。
示談交渉を成立させることができれば、その後トラブルが大事にならずに済みやすいです。
ただし自社に非がある場合には相手方に示談金としていくらかの損害賠償をすることになりますので、その分の経済的損失は生まれます。
なお、自社に非があったとしても相手方の言い値に絶対応じなければならないものではありません。相手方が主張する示談金の額が正当ではないこともありますし、その場合には弁護士の力も借りつつ、相場とも照らし合わせながら折り合いのつく金額を提示することが大切です。
②行政から指導・処分等を受けた場合
被害者である消費者個人とのやり取りだけでなく、行政とのやり取りが発生することもあります。
そこで例えば、課徴金に対しては必要に応じて弁明等を行うこと、また減額をしてもらえるような措置を講ずることも大切です。
事業者に違法行為の疑いがあると判断されたときには消費者庁またはその委任を受けた公正取引委員会が調査を始めます。そして事業者に対して措置命令を出すべきと評価されると、当該事業者に対しては「弁明の機会の付与」の通知が行われます。そのため措置命令に対して不服があるのなら弁明書を出すことでこれに抗うことができるのです。
また、①事業者が課徴金対象行為に該当する事実を報告したとき、②返金措置を実施したときには課徴金の減額が行われることがあります。
①の場合には算定された課徴金額から50%の減額、②の場合には課徴金を課されずに済むケースもあります。
そのためトラブルが発生した後からでも真摯に、迅速に対応を進めていくことで企業が負うリスクは小さくすることができるのです。
企業側に責任のない場合の対処法
消費者トラブルのすべてにおいて、企業に責任があるとは限りません。実際、企業側に落ち度がないにもかかわらず理不尽にクレームをつけられることもあります。このような場面での対応方法についても知っておきましょう。
①クレーム対応
理不尽なクレームに対しても誠実な態度で立ち向かうことが大切です。
不当な要求に対してはしっかりと拒否の態度を示しつつも、冷静な対応を取らなければなりません。企業側が正しい主張をしていても悪評を広められる可能性があります。
そこで法務担当と連携し、当該トラブルにどのように取り組むか、どうやって解決するかを考えていきます。自社に法務担当がいない場合や大きな問題に発展するおそれがある場合などには早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
②悪質なクレーム(カスタマーハラスメント)
最近では“お客様”という立場を利用した理不尽な要求・クレームを指す「カスタマーハラスメント」という言葉もあります。「カスハラ」と略して呼ばれることもあり、一般的なクレームよりも程度のひどい悪質な行為を意味します。
そしてカスタマーハラスメントの内容・方法によっては、企業側から民事訴訟により損害賠償を請求することも考えられます。
相手方の故意などに基づき自社に損害が生じたことを立証し、その被害額を支払ってもらうのです。
場合によってはカスタマーハラスメントにより犯罪が成立することもあります。次に示す行為がある場合には告訴をして刑事訴訟を起こす、あるいは警察に通報することで検察が起訴をすることがあります。
罪名 | 行為例 |
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脅迫罪 (生命・身体、自由や財産に対して害を加える旨の告知) |
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恐喝罪 (脅して金銭などの利益を得ようとする) |
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強要罪 (身体や財産に危害を加える旨示唆して義務のないことを行わせる) |
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威力業務妨害罪 (威力を用いて業務の妨げとなる行為をする) |
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不退去罪 (他人が管理する建物から退去を求められたにもかかわらず、正当な理由なく退去しない) |
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消費者トラブルでお困りの場合には、当事務所にご相談ください
近年様々な法令が改正されて消費者保護が強化されており、行政も企業への監視を強めています。そのため今後はより一層消費者保護法令への対応が求められ、これに対応できないと企業活動が続けられなくなるおそれもあります。
とはいえ消費者の言うことに従うのが良いわけでもありません。間違ったクレームに対しては戦う姿勢も必要です。法的な観点から適切なアドバイスを受けようと思うのであれば、消費者保護法関連に強みを持つ弁護士に相談してみましょう。相談を通して信頼できそうだと感じたなら顧問弁護士になってもらい、日々の業務や消費者対応についてチェックしてもらうと良いです。
大きなトラブルに発展する前に迅速な対応が取れるようになるでしょう。