悪質なクレームと適切なクレームの違い ~正当性・違法性の判定と対策について~
一般消費者への商品・サービスの提供をしている事業者は、クレームを受けることも比較的多いです。
そしてそのときのクレームに正当性があり、自社で見直すべきものであるなら、要求に従い対応していけば良いです。
しかし、ときには悪質なクレームを受けることもあります。理不尽な要求、長時間に及ぶ拘束、態度が非常に粗暴であるなど、さまざまなパターンがあります。
悪質クレームの問題点の
1つは「適切なクレームとの判別が明確ではないこと」にあるのですが、一般消費者との取引が多い事業者は内部的にでも判断基準を設けておくことが望ましいです。
ここでその判定方法の例や対策を解説していきますのでぜひ参考にしてください。
悪質なクレームの例
悪質なクレームか適切なクレームか、判断は容易ではありませんが、いくつか事例を見ていくとだんだんと線引きすべきところが見えてきます。
例えば以下に挙げるクレームは典型的な悪質クレームであり、言われるがまま対応していると現場の従業員は疲弊してしまいます。
- 対応後も「謝罪の文書を出せ」としつこく要求してくる
- 担当の態度が悪いからと「クビにしろ」と要求してくる
- お詫びや返金に応じるも従業員に説教をして数時間もの間拘束状態が続いた
- 謝罪の際に「土下座をしろ」と要求してくる
- 「社長を出せ」「責任者を呼べ」など上の者を出せと繰り返し要求してくる
- 怒りを晴らすためにあえて実現不可能な要求をしてくる
- 事業所や店頭に居座っていつまでも帰らない
一概に判断できるものではありませんが、こういった典型的な傾向が見られるときは悪質クレームである可能性は高いです。
悪質クレームと適切なクレームの違い
悪質クレームと適切なクレームの違いは明確ではありません。
法律上の定義がなされているものではなく、明確な基準が存在していないことがクレーム対応への難しさにもつながっています。
そこで「各社が判断基準を明確にすること」が重要といえます。
違法性を一事業者が勝手に決めているわけではなく、クレーム対応の行動指針を定めているに過ぎないため、各社が一応の判断基準を設けることに問題はありません。
むしろクレーム全般に対して迅速・適切な対処をしていくには、一定の基準を設けておくべきともいえます。
悪質クレームの判断基準の例
詳細は各社よく検討する必要がありますが、いくつか悪質クレームの判断基準として使えそうな例を紹介します。
犯罪が成立する
少なくとも「犯罪が成立」するようなクレームは、悪質クレームであるといえます。
クレームによって成立し得る罪として、次の例が挙げられます。
- 脅迫罪
- 「痛めつけてやる」「家族がどうなっても知らないぞ」などの害悪の告知
- 威力業務妨害罪
- 店内で怒鳴り散らしてあたりを騒然とさせる
- 店舗の出入り口をふさぐように物体を並べる
- 強要罪
- 事業者側が名誉棄損や侮辱をしていないにもかかわらず謝罪文の作成を強制させる
- 脅迫の上、土下座をさせて謝罪させる
- 不退去罪
- スタッフの制止・説得に従わず店舗でいつまでも座り込んでいる
これだけ極端な例であれば適切なクレームであるかどうかで悩むこともないでしょう。
ただし迅速に対応を進めないと実害が広がるおそれもありますし、弁護士に相談するなどして即座に問題解決を進めていきましょう。
要求内容が理不尽
「要求の内容や態度が社会通念に照らして著しく不相当なクレーム=悪質なクレーム」と考えることもできます。
結局のところ何をもって“社会通念に照らして著しく不相当”と呼ぶのか、判定は難しいですが、利益のバランスを考慮することが重要といえます。
例えば 1億円の金銭が動く取引であれば事業者側にも相応の注意深さが求められます。
不備があったときには消費者の利害にも配慮し、大きな賠償金が発生することもあるでしょう。
一方、
100円の商品を購入する取引において数万円や数十万円もの賠償を求めるのは過大な要求とも考えられます。大きな損害が発生しているのであれば別ですが、単に「不快な思いをしたから」との理由で土下座や多額の賠償金を求めるのは悪質クレームといっても差し支えありません。
他にも次の行為は社会通念に照らして著しく不相当との評価を受けやすいです。
- 謝罪として土下座を求める
- 従業員の解雇を求める
- 自社商品以外を要求する
- 「法令などのルールを変えろ」「子どもを泣き止ませろ」など実現困難なことを求める
長時間の拘束やリピート
意味もなく長時間拘束したり何度も繰り返し同じ要求をしたりする行為は悪質なクレームといえるでしょう。
時間や回数、拘束の方法などは各社が判断し、その後の対応を決めていくと良いです。
例えば長時間拘束してくるタイプのクレームに対しては「事実確認等、必要な対応を終えて膠着状態になってから 30分が経てば専門の担当者に代わってもらう」「 1時間以上店内でクレームを続けるときは警察へ連絡する」などの対応を取るのも良いかもしれません。
何度も繰り返し問い合わせてくるなどのクレームに対しては「連絡先を取得しておく」「不合理なクレームが 3回続いたときは注意をする」「注意後もリピートしてくるときはブラックリストに入れる」などの対応が考えられます。
なお、店舗や事業所外に呼び出しをくらって長時間従業員が監禁されているときは、猶予をあまり与えず、早めに警察に連絡するなどの対応を取りましょう。
従業員に危害が及ぶおそれがあります。
態度が粗暴
同じ要求内容でも、態度・言い方次第では悪質クレームになり得ます。
そこで「大きな怒鳴り声をあげている」「侮辱的な言葉を浴びせてくる」「人格否定をしてくる」などのクレームがあるときは録音をしておくと良いでしょう。
侮辱をしてくる相手方に向き合い続ける必要はなく、早めに退去させ、必要に応じて録音したデータも使って提訴をすることも検討しましょう。
暴言にとどまらず暴力を振るってくるとき、身体生命に危険が及ぶときは迅速に警察への通報を行います。
この場合はクレームの域を超え、犯罪行為として処罰、さらに損害賠償請求なども行うことになるでしょう。
SNSでの誹謗中傷
近年だと SNSでの動向にも注意すべきです。
あること・ないこと、 SNS上で発信されてしまい、事業者としての名誉が毀損されることがあります。
発信力のあるインフルエンサーなどでなくとも、誰が相手でもちょっとしたきっかけで広く情報が拡散されることがあります。
リアルタイムで被害が急拡大していくため、素早く対応し、本人やシステム管理者に削除を求めましょう。
まずは拡散を一早く止めて、その後 SNS上で悪質クレームをつけてきた方との交渉を進めていきます。
悪質クレームへの対応は弁護士にご相談ください
悪質クレームをしてくる相手方への対応は精神的にも疲弊するものです。現場で対応する従業員のストレスも大きなものとなるでしょう。
しかも「まともに取り合ってくれない」「話が通じない」といったこともあります。
そこで対応に困ったときは弁護士に対応を任せることも検討しましょう。弁護士が間に入ることで相手方にも緊張感が出て、冷静になってくれることもあります。
また、法的にどのような問題がある行為なのか、どのように救済が図れるのか、様々な観点からアドバイスを受けることもできます。