ネット販売でもクーリングオフに応じなければいけない?
事業者の対応方法について
「クーリングオフ」という言葉は広く知られていますが、世間の方がすべて適切にその適用関係を知っているわけではありません。そこでこの制度が適用されないネット販売に対しても消費者がクーリングオフを求めてくることもあり、事業者としては「どう対応すべきか」「クーリングオフに応じるべきなのか」と悩むこともあるでしょう。当記事ではこのときの事業者が知っておきたい対応方法などを紹介します。
ネット販売はクーリングオフの対象外
クーリングオフは特商法という法律で定められている制度で、特商法で規制されている一定の取引に対してのみ適用されるものです。
特商法ではネット販売を含む「通信販売」という取引類型が定義されているのですが、この通信販売にクーリングオフは適用されません。対象とされているのは次の取引内容です。
- 訪問販売(キャッチセールス、アポイントメントセールスなどを含む店舗外での契約)
- 電話勧誘販売
- 特定継続的役務提供(エステ、語学教室、パソコン教室、家庭教師など特定の契約)
- 連鎖販売取引(マルチ商法やネットワークビジネスなど)
- 業務提供誘引販売取引(内職、モニター商法など)
- 訪問購入(押し買いなどのこと)
つまり、ネット販売に対してクーリングオフを主張して取り消しを求められても、これに応じる法律上の義務はないということです。
別の制度で解除されるケースがある
クーリングオフの適用はありませんが、ネット販売(通信販売)に対しては、8日間の契約解除・返品が可能なルールが適用されます。
特商法の規定を要約すると、“通信販売により商品を購入・申し込みをした方は、その契約に係る物品の引渡しや権利の移転を受けた日から8日間であれば、その契約の申し込みの撤回や解除ができる。”と説明できます(法第15条の3第1項)。
ECサイトを運営している事業者はこの規定に従い返品される可能性があることに留意しておきましょう。
※なお、返品にかかる送料は原則として消費者負担。
返品特約で防ぐことは可能
法律で返品・解約ができると規定されているため何も対策をしなければその通りに従わないといけません。しかしながら、この規定については別途特約を交わすことでこれに従わないことも可能です。
つまり、有効に「返品特約」に関するルールを設けることができれば、商品購入後に返品されたりするリスクを排除することができるのです。無条件に取り消しができるクーリングオフとは、この点で大きく異なります。
ただし、返品をできないとする特約を設けるには次のルールを守らないといけません。
- サイト上の見やすい場所に特約を表示させる
- 特約の内容は見やすいサイズで表示させる
- 「返品特約」について記載していることを強調するため他の事項とは明確に区別する
- 詳細な条件や送料の負担については特に強調して消費者が混乱しないように配慮する
とにかく、「第三者が見たときに、返品に関する特約があると認識しやすい状態にすべき」ということです。
ネット販売でクーリングオフを求められたときの対応
一般消費者は、何にクーリングオフが適用されて何に適用されないのか、法律の詳しい規定まで理解していません。そのため、あいまいな認識のままクーリングオフを理由に取り消したいと連絡してくることもあるでしょう。
このとき事業者側は、クーリングオフが適用されないからと即座に断るのではなく、上記規定による返品・解約の有効性について考えるべきです。返品特約を設けていないのなら、そちらの規定に従い解約が認められる可能性があります。
また、取り消し義務が法的に課されていなくても、自社判断で取り消しに応じることは当然可能です。クレームをつけられて印象を悪くするより、丁寧に対応して一度返品に応じた方が今後のためになるかもしれません。
一方で受け入れ難い理由で返品を求めてくる消費者が出てきたときなど、場合によっては毅然とした態度で臨むことも必要です。クレーマーへの対応に困ることもあるかもしれませんが、そんなときは消費者トラブルに強い弁護士に相談しましょう。