モンスタークレーマーのせいで社員がうつ病に!
クレーマーに損害賠償請求できる?
昨今、「カスハラ」という言葉もよく聞くようになりました。顧客からのハラスメントを指す言葉で、特に不当な要求をしてくる顧客はモンスタークレーマーと呼んだりもします。
企業はモンスタークレーマーを放置することなく、従業員を守るための措置を検討すべきです。日常的にクレーマー対応をしている従業員のストレスはとても大きなもので、うつ病を発症する危険性もあります。
もし従業員がうつ病になってしまうとどのような問題が生じるのでしょうか。そして企業はモンスタークレーマーに対して損害賠償請求できるのでしょうか。当記事ではこの点を解説します。
モンスタークレーマーによる弊害
理不尽なクレームをつけてくるモンスタークレーマーの存在は、企業活動にもさまざまな弊害を生んでいます。
例えば、過剰な要求をしてくるモンスタークレーマーに対して要求通りの対応を取る必要はありませんが、余計なやり取りが発生してしまうことによるコストが発生します。
場合によっては訴訟を起こしてくることもあります。自社に問題がなく勝訴ができるとしても、対応にはやはり時間と手間を要してしまいます。また、実際には自社が悪くなくても風評被害が生じるリスクもあります。
ほかにも「従業員個人への悪影響」は看過できません。
モンスタークレーマーと直接やり取りを行う従業員には大きなストレスがかかってしまいます。働くことへのモチベーションが下がることもあるでしょうし、あまりにひどいときは離職やうつ病の発症といった問題も起こり得ます。
これらの問題は間接的に企業の損害となります。大事な従業員が離れてしまう、現場でしばらく働けなくなる、このような事態は金銭的な損失にもつながります。
従業員がうつ病になってしまった場合の措置
診断書を提出してもらい、うつ病であることが発覚した場合、無理に働かせてはいけません。休息が必要ですので、休職制度を案内しましょう。そして休職期間中の連絡体制の整備、スムーズに職場復帰できる環境を整えておく必要があります。
そのうえで、モンスタークレーマーへの措置も検討していきます。
クレーマーへの損害賠償請求の検討
うつ病を発症してしまった従業員個人がモンスタークレーマーに対して慰謝料の請求などを行うことは可能です。
しかし慰謝料は個人の精神的苦痛を損害とする賠償請求ですので、精神が観念できない法人には慰謝料の請求ができません。
そこで企業から直接請求を行うのであれば、「業務が妨害されたこと」などを理由とする損害賠償請求によらなければいけません。
ただ、このときの損害を算定するのは容易ではありません。
例えばモンスタークレーマーが店舗で暴れて物を壊したりしたのなら損害額の算定も可能です。しかし従業員に対してしつこく不当な要求をしてきた、といったケースだと損害額が計算しづらく、またその証明も難しいです。計算や立証の準備をするだけで労力がかかり、余計な損失を生んでしまいます。
金銭の請求以外の方法も検討
クレーマーに対して直接損害賠償請求をするのは簡単ではありません。
そこで金銭の支払いを求める請求をするのではなく、今後の被害を防ぐために「クレーマーの主張する言い分が間違っている」と認定してもらうための措置を検討しましょう。
これは「債務不存在確認訴訟」という形で実行できます。
クレーマーが「○○をしろ!」と言ってきたことに対して、法的な根拠がないことを裁判所に判断してもらうのです。損害額の算定や立証を行うよりこちらの方が実現可能性は高いといえ、モンスタークレーマーを撃退する実効性も高いといえるでしょう。
債務不存在確認訴訟の勝訴で目指すのは、争点とされているクレーマーの要求内容を退けることだけではありません。この対応によって、そのクレーマーが今後自社に不当な要求をしてくることを防ぎやすくなります。また、実際に訴訟を提起したという事実が公になることで、その他のモンスタークレーマーに対する抑止にもなります。
債務不存在確認訴訟に向けた準備、手続は弁護士に依頼して取り組んでもらいましょう。
従業員からの損害賠償請求にも注意
モンスタークレーマーによる弊害は、「従業員から企業に対する損害賠償請求」という形で表れることもあります。
これは職場の安全配慮義務違反が認められる場合に起こり得ます。
「モンスタークレーマーへの対応について相談をしていたが会社が応じてくれなかった」「改善を求めていたがそのまま対応をさせられた」など、従業員の安全を確保するための環境を整えず放置していたような場合は要注意です。
対応に困ることもあるかと思いますが、現場のスタッフに丸投げすることなく、組織が一体となってモンスタークレーマーへの対応を考えるべきです。またその際は弁護士も活用しましょう。法的な観点からどのように対応すべきか、逆にどのような対応は避けるべきか、法律のプロと一緒に考えることで最適解を見つけやすくなります。