景品表示法で課徴金措置を受けたときの対処法とは?減額や異議申し立ての方法も解説
事業者は、景品表示法の規定に反する行為をすることにより、課徴金納付の義務を課せられることがあります。この課徴金納付命令が出されてしまうと一定の金銭的負担を負うだけでなく、社会的な信用失墜も引き起こしてしまいます。
しかし同法における課徴金制度では、単に事業者に対し当該命令を出すことができる旨定めているだけではありません。減額や異議の申し立ても認められていますし、事業者の事後対応によっては損失を最小限にとどめることも可能です。逆に、命令に従わない場合におけるペナルティも予定されているため、その観点からも適切な事後対応が重要であると言えるでしょう。
そこでこの記事では課徴金制度に言及し、「具体的な課徴金の計算方法」や「命令に応じない場合のペナルティ」「減額や異議申し立て」に関して特に解説をしていきます。
課徴金の計算方法とは?
課徴金対象行為をしてしまったことにより課徴金納付命令が出された場合、以下の規律に従って課徴金の額は算出されます。金額が小さな場合の例外規定もありますので、併せて確認しておくと良いでしょう。
なお、課徴金対象行為は大きく「優良誤認表示」と「有利誤認表示」の2つにわけられます。
- 優良誤認表示:実際より、著しく優良であるとの表示
- 有利誤認表示:実際より、著しく有利であると誤認される表示
食品など特定の分野に限らず、あらゆるサービスや商品において成立し得ます。
課徴金は対象となる期間の売り上げの3パーセント
課徴金額は、基本的に以下の計算式により算出されます。
課徴金額 = 不当表示をしたサービス・商品に関する売上額 × 3%
※売上額:原則、課徴金の「対象期間」に提供された、不当表示の対象であるサービス・商品の対価を合計(引渡基準)して算定する (不当景品類及び不当表示防止法施行令)。
「対象期間」内に発生した売上額が対象になる点要注意です。
この期間は、原則として「課徴金対象行為をした期間」が該当します。要は、優良または有利誤認表示を始めた日~当該表示をやめた日、の期間ということです。また、その表示自体の掲載をやめてはいないものの、表示内容に一致するようサービスや商品の内容を変えたときには、その変更日がやめた日にあたります。
ただ、不当表示をやめたとしても、引き続きその違反した内容で取引をしたときには対象期間が延びます。対象期間として加えられるのは「表示をやめた日から6ヶ月以内」または「誤認のないよう解消の措置をとった日」のいずれか早い日までに限られますが、表示をやめさえすれば良いということではありませんので注意しましょう。
なお、以上の考え方に基づき導かれた対象期間が3年を超える場合、「当該内容につき最後の取引があった日から遡って3年間」が課徴金計算において考慮する対象期間となります。つまり最大でも対象期間は3年までということになります。
例)事業者が不当表示をした商品につき販売し、年間3億円の売上を5年間に渡って出していたとする。不当表示に係る売り上げはトータル15億円となるが、対象期間は3年であるため、売上額9億円に対する3%、つまり2,700万円が課徴金額となる。
算出額が150万円(売り上げ5,000万円)未満は課徴金措置とならない
前項で説明した計算に従い出た結果が150万円未満である場合、課徴金措置はとられないと規定されています。つまり、逆算すると不当表示に関する売上額が5,000万円未満なら原則として課徴金納付命令を出されることはないということです。
※後述する課徴金額の減額が行われた結果150万円未満になったとしても、当該規定には服さない。そのため結果的に150万円未満になったとしても、納付命令が発出される可能性は残る。
また、事業者が「違反行為であることにつき認識しておらず、その知らないことにつき相当の注意を怠ったとはいえない」と認められる場合にも当該命令は出されません。
ただしその判断においては、当該事業者が表示をする際、表示の根拠となる情報を確認していたかどうかなどが考慮されます。
その判断においてポイントとなるのは、「商慣習」です。商慣習に照らして払うべき注意を払っていなかったかどうかは、事案ごとに判断されます。またここで言う商慣習とは、「消費者の利益保護」の観点から認められるものでなくてはなりません。そこで、特定分野において提供する商品等につき、一切の確認をすることなく表示をする商慣習が存在していたとしても、同法上の正常な商慣習として認められるとは限りません。
期日までに課徴金を支払わなかった場合どうなるのか?
課徴金納付命令が出された場合、事業者は納付命令書に記載されている通りに課徴金を納付しなければなりません。
当該命令は文書によって行うことが法定されており、名宛人に当該命令書の謄本が送達されることにより効力が生じます。そして課徴金の納付期限については「命令書の謄本を発した日から7ヶ月」とも定められています。
それでは「この期限内に納付しない」あるいは「課徴金を一切納付しない」といった対応をとってしまうとその後どうなるのでしょうか。
延滞金を支払う必要がある
期限内に納付をしない場合、延滞金を支払わなければならなくなります。同法第18条にその規定が置かれています。
第十八条 内閣総理大臣は、課徴金をその納期限までに納付しない者があるときは、督促状により期限を指定してその納付を督促しなければならない。
内閣総理大臣は、前項の規定による督促をしたときは、その督促に係る課徴金の額につき年十四・五パーセントの割合で、納期限の翌日からその納付の日までの日数により計算した延滞金を徴収することができる。ただし、延滞金の額が千円未満であるときは、この限りでない。
引用:e-Gov法令検索 不当景品類及び不当表示防止法 第18条第1項・第2項(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000134)
同条項によると、延滞金は「年14.5%」であると規定されています。課徴金額にこの割合を乗じた額の納付が求められます。
なお延滞金の支払いが必要な場面において、事業者が納付した額が満額に達していないときは、まず元本である課徴金からあてられることも規定されています。(規則第19条)。延滞金が発生してしまうと事業者にはさらに大きな損失が生じることとなってしまいますので、早期に対応する必要があるでしょう。
会社の資産を差し押さえられる
督促状も無視し、新たな期限も守らず納付しなかったとき、事業者は会社財産を差し押さえられる可能性があります。差し押さえられた財産は競売にかけられ、換価されることで最終的に国に納められることとなります。
この段階にまで至ると経済的に大きな損失を受けるだけでなく、対外的な信用を失うことにもなってしまうでしょう。
課徴金は減額できる可能性がある
課徴金額は減額してもらえる可能性もあります。
1つは「課徴金対象行為を内閣総理大臣に報告する」という方法。もう1つは「返金措置を実施する」という方法です。
課徴金対象行為を内閣総理大臣に報告する
不当表示に関する事実を自主申告した場合、課徴金額を50%にまで減額してもらえる旨、同法第9条に規定されています。このような措置が認められているのは、ペナルティを小さくしてでも不当表示を早期発見し、その防止と、事業者のコンプライアンス徹底を促すという目的を果たすためです。
第九条 前条第一項の場合において、内閣総理大臣は、当該事業者が課徴金対象行為に該当する事実を内閣府令で定めるところにより内閣総理大臣に報告したときは、同項の規定により計算した課徴金の額に百分の五十を乗じて得た額を当該課徴金の額から減額するものとする。ただし、その報告が、当該課徴金対象行為についての調査があつたことにより当該課徴金対象行為について課徴金納付命令があるべきことを予知してされたものであるときは、この限りでない。
引用:e-Gov法令検索 不当景品類及び不当表示防止法 第9条(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000134)
しかし当該報告による減額措置は、予見しなかった課徴金であることを前提としています。同条ただし書きにその旨規定されており、「不当表示等につき調査を受け、その結果課徴金納付命令を出されるかもしれないと予知し、急いで申告した」というケースではこの減額措置は受けられません。不当表示の疑いがかけられてから申告したのでは、消費者保護等のため自主的に行ったとは言い難いからです。
返金措置を実施する
前項の申告による減額が望めない場合でも、特定の消費者に対し返金をした事業者については「課徴金を命じない」または「減額」の措置が期待されます。
こちらの規定は、一般消費者の被害を回復するという観点から導入されたものです。課徴金の制度に関しては景品表示法意外の法令でも見られますが、返金によって減額等の措置をとると規定しているのは同法の特徴とされています。
なおここで言う「返金措置」とは、課徴金の対象期間において不当表示等に関わるサービス・商品の取引を行った一般消費者のうち、申出をした者に対し、購入金額の3%以上を交付することを指します。
※返金対象となる一般消費者:課徴金の対象期間内に「不当表示をしたサービスの提供を受けたり商品の引渡しを受けたりした者」であり、「対価の支払いに関する領収書、その他事実を示すことができる資料により特定された者」。
課徴金の減額には弁明書が重要となる
直接減額を求めるものではありませんが、同法では違反事業者に対する手続保障として「弁明の機会」が付与されています。
第十三条 内閣総理大臣は、課徴金納付命令をしようとするときは、当該課徴金納付命令の名宛人となるべき者に対し、弁明の機会を与えなければならない。
第十四条 弁明は、内閣総理大臣が口頭ですることを認めたときを除き、弁明を記載した書面(次条第一項において「弁明書」という。)を提出してするものとする。
2 弁明をするときは、証拠書類又は証拠物を提出することができる。
引用:e-Gov法令検索 不当景品類及び不当表示防止法 第13条・第14条(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000134)
一方的に不利益な処分を受けることになるわけではありませんので、弁明をし、課徴金の減額などを期待するのであれば証拠書類・証拠物の準備なども進めましょう。なお、第14条第1項にあるように、原則として弁明は書面で行わなければなりません。
課徴金措置に異議申し立てを行うことは可能
課徴金措置の内容に異議がある場合、「審査請求」「行政訴訟の提起」を検討すると良いでしょう。
審査請求する
課徴金措置に対して納得がいかないときは、「審査請求」という制度が利用できます。審査請求とは、行政庁の処分、その他公権力の行使に対してする不服申立てのことです。
ただ不服を伝えるという事実上のものではなく、法律上の制度として設けられている仕組みです。そのため審査請求を受けた行政庁は、これに対して法に則った適切な対応を取らなければなりません。
ただしその分専門性も高い手続となりますので、審査請求により当該措置につき争うのであれば、専門家に相談・依頼を行うようにしましょう。
行政訴訟を起こす
審査請求はあくまで行政内部での審査を行うに過ぎません。その分迅速である程度柔軟な対応が期待できますが、納得がいく結果が得られるとも限りません。
そこで公正な立場からの判断を求めるのであれば、さらに行政訴訟を提起しましょう。行政訴訟とは、私人間の紛争解決のため行われる民事訴訟とは違い、国あるいは地方公共団体といった行政機関のする処分につき争うときの訴訟のことです。
審査請求より厳格な手続となり、専門性がさらに増します。自身の意見を通すためにも、訴訟上の代理人として弁護士を利用することをおすすめします。
課徴金処分となった場合には当事務所にご相談ください
景品表示法やビジネスに詳しい弁護士に相談をすることで、不当表示をしてしまわないようにすること、早期に発見して申告による減額を求めることなども実現しやすくなります。
その他不服申立てなどに対するサポートも受けられますので、課徴金措置に関する不安があるという事業者の方は一度相談をしてみると良いでしょう。